開催概要
令和6年度
あいサポート・アート
とっとり展
受賞作品
⿃取県内より応募があった総数477点の作品の中から審査員による厳正な審査を⾏い、各賞を決定いたしました。
美術部門
最優秀賞
- 《顔、かお、顔》
- 濱田 聡
審査員特別賞
- ・《愛のゆうき》 髙垣 裕太
- ・《無題》 森本 賢次
- ・《魚》 門脇 悟
- ・《馬》 吉村 柊人
- ・《ボクのart》 ゆうゆう
佳作
- ・《ブローチの女(ひと)》 福間 祐未
- ・《魁》 長谷川 竜馬
- ・《刺し子》 温湯 滋美
- ・《ときぞうのみんなとハイチーズ》 すまいるステーションときぞうのみんな
- ・《オニオオハシ》 梅田 佳輝
- ・《君を忘れない》 安木 貴郎
- ・《向日葵》 中村 美穂
- ・《希望の木》 西尾 かなえ
- ・《春夏秋冬》 石田 将梧
- ・《ドット×上神焼》 YUKI
- ・《あかとんぼ》 むつみ
- ・《笑っているか 泣いているか》 NPO法人いるか
- ・《太陽》 山田 俊徳
- ・《ゴールドだいせん》 赫 佑太
- ・《苺だいすき》 森田 宏一
- ・《ブロッケード織り》 栗本 麻衣
- ・《目に話し目で聴く》 旅人
- ・《自作ブランド「妃(おのれ)」の3Dアパレル一覧》 直子@nao_zhizi0202
- ・《夜明け》 山下 貴司
- ・《真空の結晶》 Takeru_EX
審査員講評
本今年のあいサポート・アートとっとり展の出品作品全体を振り返りながら、受賞作品の特徴にも触れつつ、それらの作品の魅力がどこにあるのかを考えてみたいと思います。
国際社会全体が直面している状況も、日本国内の経済や文化を取り巻く環境も、とても大きな変動の只中にある今、私たちは美術という手段によって何を表現しようとしているのでしょうか。それは、専門的な美術教育を受けていようがいまいが同じことです。真摯に自分と世界に向き合うこと、そして表現活動に向き合うこと。そこから全てはスタートするというのが、美術/アートの不変の流儀であると私は思います。今年のあいサポート・アートとっとり展の審査会場に立ったとき、その「あらわれ」が今ここに並んで、目の前にあるのだと感じました。会場には、強い内的必然性に突き動かされたと思しき表現が数多く並んでいて、その表現方法も実に多様。制作に集中した時間の長短はあるのだろうとは思いましたが、そのいずれもが、それぞれの力で必死に世界と結びつこうとする努力の結晶であることが伝わってくるような感触がありました。そして、その作業を日々楽しく追求する作者の様子も想像されました。皆さんが経験していた充実の時間に思いを馳せる、そんな審査でした。
今年応募された作品の総数は430点、昨年の411点よりも増加しており良い傾向です。そんな沢山の作品の中から、審査員それぞれが「推す」作品を選ばなければならないのが審査です。どれかを選ぶということは、選ばれない作品も必然的に出てくる。それはある意味では無情なことかもしれませんが、賞を選ぶということは、出品者全員に向けた応援なのだと思いながら、皆それぞれの感性で作品を選んでいきました。私について言えば、昨年より審査に加わりましたので、その時の記憶もベースにはありながら、つまりは比較のようなものですが、それでも今年はやはり、作品それ自体から立ち上がってくるイメージの強さに注目したいと思いながら作品を見つめました。また、作者が創造したいイメージ、ヴィジョンとはどのようなもので、それが自然なかたちで表出されているかどうかも大事なポイントになると考えました。
そんな中で最優秀賞になったのは、濱田聡さんの《顔、かお、顔》でした。画面全体を覆い尽くす様々な顔は、図式化されているようでありながら個性的でもあり、そう考えると、一つ一つの顔が見る者に投げかけてくるその声は、見る者の耳の奥で、まるで第九のように大音響で鳴り続けているように私には思えました。書き込みの細部に目をやると、実は顔だけでなく自動車のようなものも隙間に埋め込まれている。鉛筆で大きな画用紙に向き合う濱田さんの心の中に何が充満していて、この作品に繋がったのか。作品の直接的なきっかけはスタッフの方が着ていたTシャツの柄のようですが、そこからここまでの世界が生まれることに興奮してしまいました。この作品は全員が推した作品でした。
金賞を受賞したharu=tenpestさんの《世界に一つだけの華》も、昨年に続き金賞を受賞した廣東未紗さんの《ホテル・ハイドランジア》も、見る者を引き込むようなパワーに満ちた作品でした。同じく金賞の(株)えがお農業部門さんの《ちいちゃんのつぶやき》は、幾つかの詩とカラフルなドローイングが不思議なハーモニーを奏でている、文字通りポリフォニックな作品としてユニークなものでした。
未来への不安といったものが誰の中にも潜在する今この時において、アートとは恐らく、私たちに希望をもたらす可能性が最も高い存在であり、この現状を突破する力を秘めた、誰もが共有することのできる文化的所産であろうと思います。それが放つ光は、今回の受賞作品からも、受賞しなかった作品からも等しく私たちに届いていると確信しています。その光がこれからも輝き続けることを、心より期待しております。
美術部門審査員 鳥取県地域社会振興部美術館学芸担当参事
三浦 努
文芸部門
最優秀賞
- 《幸せレシピ》
- タダ イキル
審査員特別賞
- ・《秋色メイク》 高橋 このみ
- ・《銀色の羽根》 牧田 隆幸
- ・《一人ぼっち》 大坪 來人
佳作
- ・《わかめとり》 岡田 千里
- ・《センサイ》 福田 英子
審査員講評
書くことも、読むことも、すなわち〝在りかた〟が問われている。「わたし」がどう在るか、そこから創作も読みもはじまる。審査でも選考でもない、ひとりの読者として読ませていただいた。
まず、まっすぐに私のこころに届いたのはタダイキルさんの詩「幸せレシピ」(最優秀賞)だった。「えがお」や「なみだ」や「くやしさ」、「こい」や「ゆうじょう」など「わたしの〝いま〟」をつくっている/ささえてくれている要素(具材)をつかって調理する。もちろん、おいしくいただくためだ。どんなにつらく苦い経験でもそれがスパイスになるのだと、だからこそしあわせがあるのだと気づかされた。おのが経験を調理法に変換して俯瞰する発想の裡(うち)に、「わたし」をどう他者にさしだすべきか、どうすればおいしく味わってもらえるのかといった真心やおもいやりがあり、生きるヒントも内包されている。ことばも構成力もさることながら、色彩ゆたかなイラストもすばらしい。ぜひ展示会場で多くのかたにふれていただきたい一篇。
うるしばらそらさんの詩「俺、のきもち」(金賞)は倉益敬審査員、濵頭明日香さんの詩「ありがとうのとき」(銀賞)は西浦幹茂審査員が推した。前者は「雨」をとおしての自己の内面へのアプローチ、後者は周辺の――「わたし」を生かしてくれる――モノたちへのアプローチが評価された。両審査員とも定型への意識がつよく、しっかりと連をつくり、構成が練られている作品が高評価だった。来年投稿されるかたへアドバイスをひとつ。短詩型をものするためには、まずは型を知ってほしい。知ったうえで、そこから逸れるのか破るのか越えるのか、あなたなりの感性や方法論、態度決定を示していただきたい。
住谷心春さんの詩「池ポチャ」(銅賞)は、「どうして/池に石を「ポチャ」と落としただけなのに/どうして/こんなに感情がたかぶるのか」という冒頭がすばらしかった。なにげない日常の一コマの、その一瞬間の感情のたかぶり。数秒後、数分後にはわすれているかもしれない、しかし確(しか)と胸中をよぎった「わたしの〝ほんとう〟」を詩として結晶化させることに成功している。共感されるかたも多いだろう。
審査員特別賞に選ばれた三作品にもふれたい。大坪來人さんの写真つきの詩「一人ぼっち」は、「りっぱな背中を見せて」いる友に焦点をしぼった一篇。友の在りかたに作者自身(の心境・心情)がうまく反映/投影されている。「写真の左下にちょっとだけ映っているのは作者の肩では?」という指摘があり、そこから私たち読み手の想像がふくらんだ。しかし、あくまでこの賞が「文芸部門」であるからには、(絵や写真に頼るのではなく)〝ことば〟で勝負してほしい。詩のなかにあと一行でも、大坪さんだけの声やまなざし(=ことば)が入っていれば、もっと上の賞に選ばれていた可能性がある。またそれは牧田隆幸さんの短歌「銀色の羽根」や高橋このみさんの詩「秋色メイク」にもつうじる課題で、社会の風潮や常識やルールなどにとらわれず「わたし」を開放し、「わたし」だけの感覚や感情、見かたやとらえかたを提示していただければ。次回作も期待しています。
ほかにも、佳作に選出された岡田千里さんの短歌「わかめとり」と福田英子さんの詩「センサイ」はもちろんのこと、旅人さんの詩「無いという力」や無難Pさんの詩「青虫」や磯辺星空さんの詩「くつが言う」なども印象に残った。常連投稿者・過去受賞者のかたには(実力が折り紙つきであるからこそ)ややきびしい評価をくだしてしまったことを謝りたい。今回はあらたな才能を発掘するべく、なるべく受賞歴のないかたの作品に目をむけ、重点的に読みこんでいった。選考にもながれがあり、テーマがある。書き手の技量・力量が拮抗する場合、私たち読み手側の嗜好や解釈以上にその場の潮目が明と暗をわけることがある。本来、通俗的な価値などない創作物と対峙するのだから、どんな賞でも「確定」はありえない。
最後にお願いをひとつ。鳥取の文芸をもりあげるためにおちからを貸してください。友人知人など周囲のかたがたに詩歌の魅力をつたえていただきたい。最初はお気に入りの作品をひとつふたつ読んでもらうだけでもいいです。できればご自身の気もちをノートやスマホやパソコンに書きだしてみること。いったん言語化してみれば、そこから無限のイメージ/可能性がひろがっていく。原稿用紙のマス目にあるいはスマホやパソコン画面に、気づかなかった事柄、見えなかった情景がたちあがってくるはず。だれもが創造・想像をたのしむ契機を保持している。「わたし」がいま存在していること、生きて在ることそのものが――切実さ・痛切さをともなった――創造であるといってもいい。
あなたの〝在りかた〟(まなざしや姿勢)を読ませていただきたいのです。一作品でも多くの投稿をお待ちしております。
文芸部門審査員 鳥取文芸協会会員
漆原 正雄
マンガ部門
最優秀賞
- 《伝説も友情も永遠に》
- やまと たいし
審査員特別賞
- ・《おともだちになったよ!》 YM
- ・《ヘボ探偵 土井留》 中井 啓裕
- ・《面接》 はっちゃん
佳作
- ・《仕方ないじゃない。ねこなんだもの。》 ヒノキ風味
- ・《うなぎの4コマ2024》 烏店長
審査員講評
■最優秀賞『伝説も友情も永遠に』
鳥取の伝統芸能である麒麟獅子舞と猩々の関係がコミカルに描かれている素晴らしい作品です。漫画の表現においては、見る人を飽きさせない構図やキャラクターの動きが大切になりますが、その表現の幅も広く、読者を楽しませてくれる漫画になっています。これからも、読み手を楽しませてくれる漫画表現を突き詰めていってください。
■金賞『あきらめないぞ!2024』
4コマ漫画の基本である起承転結がきちんと描かれていて素晴らしいです。オチもほっこりする内容で、楽しく拝読させていただきました。鳥取のソウルフードであるスタミナ納豆を題材にされているのも面白いと思いました。独自の世界観を描かれる作家さんですので、これからも自分の個性を大切に、漫画を描いていただきたいです。
■銀賞『だって美味しかったんだもん・・・』
4コマ漫画としての演出が秀逸でした。キャラクターがコマを貫通することで、読者によりインパクトを持たせる作りになっています。漫画のコマという概念に囚われない自由な表現が、作家さんの持ち味であるように感じます。絵柄もとても可愛らしく、愛着が持てるので、猫ちゃんシリーズとして続きを描いてみられるのもいいと思います。
■銅賞『すすめ!表情筋』
目と口でキャラクターを作るという独自性が素晴らしいです。最初はぎょっとしますが、漫画を読み進めていくうちに愛着が湧いてくるのは、キャラクターがしっかり作りこまれている証拠です。4コマ漫画の起承転結もきちんと描かれていますし、キャラクターを作る力のある作家さんだと思うので、今後も魅力的なキャラクターをたくさん生み出していってください。
■審査員特別賞『ヘボ探偵 土井留』
主人公・土井留のキャラクーと表情が魅力的に描けていました。キャラクターがボケているだけでは、読者が置いてけぼりになってしまいますが、ツッコミを入れるキャラクターがいることによって、物語にメリハリが出ています。クスっと笑ってしまうようなエピソードと、キャラクターを作るのがお上手な作家さんですので、シリーズもので連作を描かれてみるのもいいかもしれません。
■審査員特別賞『おともだちになったよ!』
可愛い女の子の表情が、とても魅力的に描かれていますね。台詞はありませんが、二人のやりとりが可愛らしく、ほっこりしました。絵は繊細で、丁寧に描きこまれていて、作家さんの素敵なお人柄がうかがえる作品だと思います。これからも自分の好きなもの・描きたいものを丁寧に表現していってください。
■審査員特別賞『面接』
キャラクターの表情がコミカルに、生き生きと描かれていて素晴らしいです。キャラクターの位置関係も分かりやすく、漫画としての基礎はきちんとできていると思います。これからもたくさん作品を描いて、力をつけていってください。
■佳作『仕方ないじゃない。ねこなんだもの。』
豊富な種類のアナログ画材で、魅力的な画面作りができている素敵な作品です。内容も「猫ならそうなるよね…」と、クスっと笑ってしまうエピソードが上手く描かれています。猫のフォルムも可愛らしく、ギャグ顔の表現なども作家さんの個性が出ていて素晴らしいです。ご自身の作風がしっかり形成されている作家さんなので、自信を持ってどんどん作品を描いてください。
■佳作『うなぎの4コマ 2024』
キャラクターの造形が魅力的で、カメラアングルの使い方もとてもお上手です。読者の読みやすさをきちんと意識されている点も素晴らしいです。オチもシュールでおもしろかったです。漫画を描く実力は十分にある作家さんですので、同じキャラクターが登場する連作にチャレンジされてみてもいいかもしれません。
マンガ部門審査員 漫画家 武田 愛子